yoshimi

有限会社 芳美商事

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『いい子貯金とジャリ銭山』

『いい子貯金とジャリ銭山』

むかしむかし、どこかの未来で「いい子貯金通帳」が配られた。

これは政府が発行したとってもスグレモノで、
・ゴミを拾えば10ポイント
・お年寄りに席を譲れば50ポイント
・泣いてる子を慰めれば100ポイント

…そんなふうに、「いいこと」をすると自動でポイントが貯まるのだった。

貯まったポイントは何に使えるかって?
なんと「模範市民認定証」や「表彰バッジ」、さらには「幸福指数ランキング」で優位に立てる!

ある町に「ユウト」という少年がいた。
彼は通帳のために、毎朝校門前で自転車を降りてはわざとゴミを探した。

教室では、周囲を見渡して「ちょっと悲しそうな顔」をしているクラスメイトを選び、
そっと声をかける。
(”感情ポイント”は人目が多い場所で発動した方が高得点なのを、彼は知っていた)

ユウトはいつも“よいこの模範”として表彰されていた。
PTA会長は「見習うべきお子さんです」と言い、
地域の広報誌は「この子の未来に希望あり!」と褒め称えた。

だが、ある日ユウトは、空き地で一人の女の子に出会う。
その子は名を「フウ」といった。

彼女は言った。
「いい子って、誰のためにいい子なの?」
「自分のため? 誰かのため? それとも“誰かが見てるから”?」

ユウトは答えに詰まった。
「……いいことをすると、ポイントが貯まるんだ」

フウは笑った。
「じゃあ、“善意”ってポイントカードの名前なのね」

その夜、ユウトの通帳は破れていた。
どこにも見つからなかった。
代わりに彼の部屋に落ちていたのは、小さな紙きれ。

そこには、こう書いてあった。

「ほんとうの親切は、記録に残らない。
誰も見てなくても、なぜか泣きたくなるくらい、やさしいやつ。」

ユウトは翌日からポイントを貯めるのをやめた。
でも、不思議なことに――
前よりもゴミを拾う回数が、増えていた。

【おわりに】
この話の教訓?
さあ、それを聞くあなたにこそ問いたい。

「あなたの“いいこと”、
それは“誰かが見てるから”ですか?
それとも、“誰にも見られなくても”ですか?」

そして…
あなたの“通帳”は、どこにありますか?

🈷️

『ユウトと栄誉の影』
ユウトは“いい子”のまま大人になった。

小学校では「道徳優秀賞」
中学では「市民模範奨励章」
高校では「心のふれあい優等証」
大学では「地域貢献特待生」
社会人になる頃には、胸がバッジでいっぱいになっていた。

彼の通帳は、分厚く、重くなった。
それはまるで「徳の預金通帳」のようだった。

人は皆こう言った。
「ユウトくんのような人が、もっと増えてくれたら」
「君のような人が、世の中を救うのだ」

ユウトは決して疑わなかった。
だって、「善意は貯めるもの」だと教わったから。
誰かが見てる「良い行い」が、正義だと信じたから。

でも──
老いてきた頃、ふと気づいた。

誰もいなかった。

賞状とバッジと通帳だけが部屋に残り、
人の温もりは、いくら探しても、なかった。

近所の子どもたちは彼に手を振らず、
かつて一緒に表彰された仲間たちは、別の道を歩んでいた。

ある夜、通帳をめくると、紙が一枚、ひらりと落ちた。

それは若い頃、”たった一度、通帳に載せなかった行為”の記録だった。

道で迷っていた犬に手を差し伸べた、
誰にも見られていない夜の出来事だった。
ポイントにもならず、賞にもならなかった、ただの小さな親切。

でも、そこにだけ――インクが滲んでいた。

ユウトは声もなく笑った。
そして、そのページだけを、胸にしまって、眠りについた。

【おわりに】
この話の教訓?
たぶん、こうかもしれません:

「誰にも見られなかった優しさが、
最後に、あなたを抱いてくれる。」