yoshimi

有限会社 芳美商事

〒335-0023
埼玉県戸田市本町三丁目4番14号

『酒神の夜、哲学デスマッチ――藤原喜明 × カズ爺』

『酒神の夜、哲学デスマッチ――藤原喜明 × カズ爺』
――場所は都内某所、文士たちが集う地下の小宴会場。
文学者の主催で開かれた“風狂サロン”。
だがその夜は、明らかに空気が違った。

藤原喜明――言わずと知れた“関節技の鬼”。
リングを降りた彼は、酌婦の視線を軽くかわし、
ただ一人の老爺のもとへ、ぬらりと歩み寄った。

カズ爺――森の哲学者にして、筋金入りの無神論者。
一切の世辞を廃し、禿げた頭を堂々とさらす硬骨漢。

「おう、あんた、ええ顔してんな」

藤原はニヤリと笑うと、カズ爺の禿げた頭に
躊躇なくキスをした。

――ここから、酒神ディオニュソスの夜会が始まった。

第一ラウンド:対話の地獄めぐり
藤原:「神ってのはよォ、いるかいねぇかじゃねえんだよ。ぶん殴れるかどうかだ」

カズ爺:「それを言うなら、世界もまた“ぶん殴る側”ではなく“ぶん殴られる側”だな」

藤原:「いいじゃねぇか、じゃあ神様も泣いてんのかよ?」

カズ爺:「泣くかは知らんが、酔ってるだろうな、今夜は」

酒、酒、また酒。
盃をかわすたび、哲学の深淵が暴力と笑いに揺れた。

第二ラウンド:沈黙のジャーマン・スープレックス
酌婦が運んできたワンカップ大関を一気に干す二人。
語り部は傍らで静かに見守る。

カズ爺:「お前なぁ、そんなに飲んで大丈夫か?」

藤原:「フッ……もうトイレの場所もわかんねぇ……だがな、俺の勝ちだ」

カズ爺:「ああ……お前、ついに沈んだな。俺の方が、酒には強ぇんだ」

語り部は見た。
あの藤原喜明が、廊下の便所の前で四つん這いになり、
呻き声を漏らしながら敗北の鐘を鳴らす姿を。

最終章:風狂の判定
その後、カズ爺は各地でこう語るようになった。

「俺はなァ、藤原に勝っちまったんだよ。リングじゃねえ、酒の上でな」

「あいつ、俺の禿げにキスしてから崩れたからな。あれが決め手だ」

この夜、誰が勝ったのか。
神か、無神論者か、あるいはワンカップか――

だが語り部だけが知っていた。

この夜、確かに「哲学」がプロレス技をかけられて、泣いていたと。

【開幕:ネオンと余熱】
酔いどれたカズ爺と藤原喜明は、手を肩に回しながら夜の通りをふらつく。
通称「黄泉坂(よみざか)」と呼ばれる、場末のスナック街。

見えてきたのは、スナック《ラメント》。
扉のガラスには、手書きでこう貼られている。

本日カラオケ点数バトル開催中
優勝者には「御茶漬け食い放題券」進呈!

藤原:「ほう……勝負、受けて立つ」

カズ爺:「これはもう、次元の違う哲学問答だな。言葉じゃなく“音程”で語るときが来た!」

【邂逅:混沌の常連たち】
ドアを開けた瞬間、満ちる韓流バラードのビブラートと法令の解釈のように固い演歌節。

店内では、
・自称・元北朝鮮国営放送の歌謡担当、“御茶漬け韓国人”氏
・地域密着・無敵の書類男、“行政書士・渡辺”氏
が、カラオケマイクを両手で奪い合っていた。

御茶漬け:「テヨン! 俺の“時の流れに身をまかせ”を聞けぇえええ!」

行政書士:「いやここは“契約書に恋してる”で点取らせてもらいますッ!」

カズ爺:「あんたら、またやってんのか。今日はこっちも哲学と酒で一戦やって来たとこだ」

藤原:「というわけで、四天王の宴(カルテット・カオス)、開催といこうじゃねぇか」

【勝負:マイクのグラップル】
カラオケの順番が回り、戦いの幕が上がる。
点数表示は四柱推命の命式のように重く、誰一人として笑わない真剣勝負。

御茶漬け韓国人:
選曲「氷雨」――絶妙なビブラートと微妙な母音。
点数:85点(ただし韓国式換算で94点と主張)

行政書士・渡辺:
選曲「無罪モラトリアム」
点数:83点
※採点後に「途中で公文書っぽい言葉がない」と文句を言い、減点に異議申し立て。

カズ爺:
選曲「哲学者の道(自作曲)」
点数:78点
※「点数という概念自体が資本主義的スコアライズだ」と抗議

藤原喜明:
選曲「炎のファイター」+「カントの純粋理性批判の序文朗読」合体バージョン
点数:67点
※だが店内全員がスタンディングオベーション

【終幕:祝いの酒と破綻した順位】
順位など、どうでもよくなった。

誰かが叫ぶ。

「点数じゃねえ、“魂の分配”だ!」

店内には泡盛、ワンカップ、マッコリ、焼酎が飛び交い、
御茶漬け韓国人は泣きながらカズ爺にハグし、
行政書士は店の隅で憲法前文を歌い始め、
藤原喜明は店の床で、すでに寝技に入っていた(誰にかは不明)。

【エピローグ:後日談】
翌朝、カズ爺は神妙な顔で言った。

「なあ、あの夜のスコアって、
俺たちの人生そのものだったんじゃねえか?」

藤原は静かに頷いた。
だがその手には、優勝者としての“御茶漬け食い放題券”が握られていた。