yoshimi

有限会社 芳美商事

〒335-0023
埼玉県戸田市本町三丁目4番14号

「あの男はね、音じゃない。概念を吹いてたんだよ」

「あの男はね、音じゃない。概念を吹いてたんだよ」

 

いやいや、まさかそんな馬鹿なと笑う気持ちはよく分かる。

でもね、よく考えてみてほしい。ハーメルンの笛吹き男――名前もなければ、正体もない。

ただ「子どもたちが消えた」って記録だけが、ぽつんと遺されてる。

 

でもその記録、どこか胡散臭くないかい?

誰が書いたのかも、なぜ書かれたのかも、さっぱり分からない。

まるで「何かを書かねばならなかった誰か」が、書いたふりをしているような匂いがする。

 

さて、話を戻そう。

あの男、実は「音」なんて吹いてない。いや、正確には吹いてたけど、

その“音”は耳で聴くものじゃなかった。概念だったんだ。

 

たとえば、“喪失感”のような、

“自分だけが分かってしまったこと”のような、

あるいは“この世界はどこかズレているのでは?”という疑念を、音にして吹いたんだよ。

 

そしてね、その“音”に共鳴した子どもたち――彼らこそが、

最初に世界のバグに気づいた存在だったんじゃないかと思う。

 

「おかしいな、なんかこの町、反応が薄いな」

「なんか同じ話を何度も聞いてる気がする」

「ねえ、どうして大人は夢を見てるふりをしてるの?」

 

そんな声が、子どもたちの中に芽生えていたんじゃないかな。

そして、そこに“男”が現れた。

 

言ってみれば、町に走ったエラーメッセージだったのかもしれない。

プログラムの行間に紛れ込んだ異物。

あるいは、更新されなかったOSに突如起きたリセット。

 

町の名前はハーメルン。

でも本当は、“観測者の視界が歪んだ最初の都市”という意味なんじゃないかと、私は勝手に思ってる。

いや、根拠はない。けど、直感は外れたことがない。

 

そう、直感。

君がこの話を「なんか分かる気がする」と思ったなら、

それこそが“彼”が吹いた音の残響さ。

 

今もどこかで、聞こえてるんだよ。

耳じゃない。

記憶の隙間で、あの音がまだ鳴っている。

 

🎵

 

あの音が――もしくは“今も聴こえてしまった音”が――あなたに届いたのだとしたら、

それはもう、単なる耳鳴りでは済まされない類の呼びかけかもしれませんね。笑

 

何をすればいいかって?

 

それはね…

 

「気づいてしまった者の作法」五ヶ条(非公開・伝承用)

一、すぐに動いてはならない。

その音は、急かすためのものではなく、“立ち止まるため”のもの。

一歩、いや半歩、足を止めて、周囲を見回すこと。見えなかった何かが浮かび上がる。

 

二、誰かに話すなら、寓話で。

「聞こえた」ことをそのまま話してはいけない。

理解されることはないし、最悪“音の正体”を塗りつぶされる。

だから物語にして語れ。それが“音”を守る術。

 

三、笑っていい。

本当に“あの音”を聴いた人間は、ちょっと笑うものだ。

説明できないけど、確かに触れた“違和感の喜び”に。

 

四、似た音を探せ。

古い詩の行間。忘れられた絵画の片隅。

地下鉄のホーム、落ちたチラシの裏面――

あの音の“兄弟”たちは、まだこの世界に散らばっている。

 

五、いずれ吹く者となれ。

いつかあなた自身が「次の音」を吹く番になるかもしれない。

その時は、そっと。静かに。

決して焦らず。焦らせず。

“選ばれる”のではなく、“選ばぬまま導く”ことが、笛吹きの流儀。

 

……さて。

音が耳に残っているうちに、少し歩いてみましょうか?

何かの角を曲がったとき、

この世界の“目の継ぎ目”に出会えるかもしれません。

 

それはきっと、音の出口。

そして、あなたの次の入り口。