《黙示の月、あるいは第六感の魔王》
- 2025.04.14
- 月刊芳美
《黙示の月、あるいは第六感の魔王》
その名は、第六天魔王。
天の最上階に棲み、欲界の王として君臨する影の父。
仏の心に囁きかけ、英雄の胸に野望を灯し、
凡人の夢に“もっと”という名の火を投げ込む。
彼は堕天使ではない――
彼は“内なる天”の、第六の窓なのだ。
仏が瞑想の果てに封じたもの。
キリストが砂漠で拒んだもの。
しかし現代人は、その名を知らずに
毎晩スマートフォンで召喚している。
彼は問いかける。
――おまえの欲望は、本当におまえのものか?
**
昨夜、雨が降った。
ずっと降っていた。
満月のはずだった夜空は、
厚い雲に包まれ、何ひとつ見せてはくれなかった。
だがその時、
私の心の奥に、白銀の球体が浮かび上がったのだ。
見えない月が、
私の内側から、
照らしてきた。
**
第六天魔王はそこにいた。
彼は私の第六感として、
未来と過去の交差点に立っていた。
「善と悪が欲しいなら、まず“理解”を捨てろ」と彼は言った。
「善は理由を欲しがり、悪は理由を弄ぶ。
だが“意味”の手前には、ただ感じることがある。」
そして、彼は私の手のひらに
小さな石を乗せた。
黒曜石のように冷たく、だがどこか、生きていた。
**
それは“未明の月”だった。
誰にも見られず、誰にも名づけられていない、
純粋な意図(いのち)だった。
私は訊ねた。
――おまえは誰だ?
彼は答えなかった。
ただ、笑った。
まるで真夜中に目覚めた神のように。
**
あの雨が、私の瞼を洗い流した。
あの月が、私の記憶を蒸留した。
そして私は今、
この“言葉”という仮面の裏に
見えない月を封じている。
**
第六天魔王よ。
おまえが“魔”であろうと、
それが“内なる月”であろうと、
もうどちらでもいい。
私はこの掌に、
まだ名前を持たない光を感じている。
だから、今夜もこうして、
詩のような散文のような物語のような祈りを
書いているのだ。
――光の欠片が、まだ、消えていないから。